《フィクションを食べよう》(1)レーズンマフィン
……私はするりとぬけ、
「あ、志門、マフィン食べない?」
籠に山盛りにしたレーズンマフィンを私は持って来た。小麦粉とベーキングパウダーと卵と牛乳、サラダ油でこねてオーブンで焼くという、このお菓子、簡単なわりには見ばよく、おいしそうなんだけど。志門は、
「いや。そういうの、きらいやねン」
――連もそういえば私が作ったお料理は喜んで食べるくせに、お菓子はきらいみたい。
(田辺聖子 「男たちはマフィンが嫌い」より)
タイトルそのままのシーンだ。
この作品中のマフィンは、登場人物たちには好まれていない。挙句の果てに作品の最後には、マフィンを焼いた当の本人であるヒロインの「私」までが「あまり好かないことに気づいた」なんて言いだす。そんなアイテムであるにもかかわらず、この原材料の羅列を見てたらやっぱり食べたくなってしまう。
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Moanista to 梅
namancha to ちいさなヴィーナスの鏡
あづちん to ちいさなヴィーナスの鏡