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じゃあ逆はどうよ

ではペレアスのメリザンドに対する二人称が変化するのはというと、もっと前。
三の幕一の場までは«vous»、二の場からは«tu»を使っている。

以下、物語について具体的に記述している部分がありますので、今後本を買って読もうとされる方はご遠慮くださいませ。

三の幕二の場もかなり印象的な部分だ。
メリザンドは髪がものすごく長い。ラプンツェルなみとまではいかないが、2階の窓から顔を出せば、1階にいる人にゆうに届くくらいはある。
塔の窓から顔を出したメリザンドの髪が、窓の下の周歩道からペレアスの上にふりかかる。ペレアスはその髪とたわむれ、またそれを抱きしめくちづける。
直接的でないながらエロスを感じさせる行為には違いない。

これがメリザンドの夫でありペレアスの兄であるゴローに見つかってしまう。

そういえば前の書き込みで、四の幕第四場でメリザンドの二人称が変化している話をしたが、実はこの三の幕第二場でも、一旦メリザンドのペレアスへの二人称は«tu»になっている。たとえば「離して!」を«Laissez-moi»(vousに対する命令形)ではなく«Laisse-moi»(tuに対する命令形)と言うなど。
具体的には「長旅に出るのでもう逢えなくなる」とペレアスに告げられた直後からしばらくの間である(ちなみに、この旅には諸事情で出ることができない)。

実はさきの書き込みでとりあげた四の幕第四場でも、メリザンドの二人称が変化したのはペレアスに「二度と会えなくなる」と告げられてからだ。

メリザンドの二人称からはゴローの妻である手前の自制心が表れているようにも思われる。これがペレアスと二度と会えなくなると聞いて動揺すると本心が出てしまうのか。

一方、ペレアスが出ようとしている旅は、遠方に住む瀕死の親友を見舞おうとしているもの。だが一方で、このまま城にいるとメリザンドへの想いが耐え難いものになってしまうから、という自制を兼ねてのこととも思われる。

最後にこのふたりがゴローの襲撃で死を迎えてしまうことも考えると(メリザンドはゴローとの間に授かっていた女の赤ちゃんを産んでからだが)、この微妙な心情が表れた二人称の変化は更に切ない。

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